ヨーロッパの紙札
ヨーロッパの札の記録は1370年代に集中し、そこから十年で大陸中へ散ります。この帯で見どころなのは、札が土地ごとに顔を変えたことです。ドイツでは鈴や葉や心臓の紋、イタリアとスペインでは杯と剣と棍棒と貨幣、フランスではいまのダイヤとスペードとクラブとハート。同じ遊びなのに、地方ごとに絵柄が違う——そしてそのフランス式が、印刷しやすかったために世界標準になりました。上の「神話」は、この帯の札にまつわる誤った名づけの話です。
神話の訂正
いま残っている美しい手描きのタロットは、1392年にフランス王シャルル6世のために作られたものだ
1392年の会計記録に「金箔と彩色を施した三組の札を、ジャクマン・ジャンジニュールが王の娯楽のために作った」という支払いが実在します。19世紀半ばの研究者が、それをフランス国立図書館にある手彩色のタロットと結びつけ、「シャルル6世のタロット」と呼びました。ところが様式の研究で、その札は15世紀半ばの北イタリア製だと分かります。1392年の記録とは無関係で、しかもそのときの札はタロットではなく普通の遊びの札だった可能性が高い。誤った結びつけが、尊敬された学者たちにも長く受け継がれました。名前がつくと、物のほうが引き寄せられていくのです。